料理について、患者さんが悩んでいることとは?[オンライン座談会・前編]l  みんなの工夫

料理について、患者さんが悩んでいることとは?[オンライン座談会・前編]l   みんなの工夫

医師監修:東京医科大学 神経学分野 主任教授 赫(てらし) 寛雄 先生
管理栄養士監修:株式会社おいしい健康 管理栄養士

パーキンソン病患者さんに「料理をしながらリハビリをする」ことをコンセプトに、さまざまなレシピや工夫を紹介している「リハビリキッチン」。

今回は料理を毎日作っている患者さんに、パーキンソン病ならではの悩みや実際にしている工夫、毎日のリハビリについてお話を伺うオンライン座談会を開催しました。前編の今回は、料理の下ごしらえや調理中の悩みなどを伺いました。

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1.料理の下ごしらえで工夫していることはありますか?

料理の下ごしらえで工夫していることはありますか?

みんなの工夫

  • 薬が効いている時間に、食材を下処理して冷凍する
  • 食材は切って売られているものを利用する
  • リハビリのため、スライサーなどは使わずに包丁で千切りにする

ヨシミンさん: 私は薬が効いている時間に、下処理した食材や作ったものを冷凍しています。こうすると調理時間が短縮されて便利なんです。また、食材を切るには包丁だけでなく、調理バサミの方が早くて安全な場合もあるので、よく使っていますよ。

るーみんさん:調理で一番面倒なのは切ることですね。体が動くときは包丁やハサミで材料を切っていますが、体が揺れているときは危ないので、包丁の扱いには特に気をつけています。調子がよくなくて切るのが難しいときは、市販されている冷凍の野菜ミックスを活用します。肉や魚も冷凍のものを使うことが多いですね。

虹の谷さん:私も食材は切って売られているものを利用することが多いです。これは皮むきなどの作業を減らすという意味もありますが、私の体調がよくなくて料理ができないときに、夫に負担をかけずに代わってもらいやすいようにするためです(笑)。そうして、家族にも家事を協力してもらいやすいように考えています。

ほかに調理の工夫としては、回転式のみじん切り器を使っています。また、カレーなどで玉ねぎのみじん切りを炒めるときは、事前に電子レンジで加熱したり、少し塩を加えて炒めたりすると早く茶色になるので、時短になる工夫をしています。

Makiさん:私は食材を切るときはリハビリもかねて、スライサーなどは使わずに普通の包丁で千切りなども行って、できるだけ以前と変わりなくやっています。丁寧にしようとすると時間がかかりますが、リハビリだと思って自分に課している感じですね。

山口さん:ブロッコリーや小松菜など冷凍した方が鮮度を保ちやすい野菜は、電子レンジで加熱してから小分けにして冷凍するといいですよ。根菜類はゆでて小分けにして冷凍しておけば、お椀に入れてみそを溶くだけで、お鍋を使わずにみそ汁ができるのでおすすめです。

るーみんさん:みそ汁といえば、私は乾燥わかめをよく使います。水で戻すだけで手間が少ないので、毎日みそ汁に入れて食べています。

医師からのアドバイス

下ごしらえを先に済ませてしまい、その後の調理時間の短縮につなげるのは、とてもいい方法だと思います。症状に波のある患者さんは、午前中など、調子のよい時間帯に買い物や下ごしらえをその時間に済ませておくのもいいでしょう。(赫先生)

管理栄養士からのアドバイス

皆さん、普段から食事を楽しむ工夫を積極的に取り入れていらっしゃるんですね。野菜は冷凍保存したりすることで調理の手間を省くことができますし、使いたい分だけ取り出せるので便利です。乾燥わかめをはじめとする乾物の便利なところは、軽くてカサが少なく、保存が効くこと。カルシウムなどのミネラル類、食物繊維といった普段不足しがちな栄養素も含まれていることも多いので、栄養バランスを整えるアイテムとして上手に食卓に取り入れる工夫はとてもいいですね。(おいしい健康 管理栄養士)

2.調理をするときの悩みや工夫はありますか?

調理をするときの悩みや工夫はありますか?

みんなの工夫

  • 体が動くオンのときと動かないオフのときの差があるから、料理は「時短」や「作り置き」を意識
  • 揚げ物中にオフになったら、火を止める
  • タイマーをセットして、火の消し忘れを防止!

レオさん:私は薬の効き方により体調のオン、オフの変動が激しい方です。そのため、揚げ物中にオフになると危ないので、食材が油に入ったままでも火を止めて、夫に代わってもらったりしています。

ほかには、作り置きできる煮物やサラダなどは、体が動くオンの時にまとめて作っておくようにしていますね。

山口さん:少しでも時短になるように半端に残ってしまった野菜は、ピクルスやぬか漬けにして常備しています。献立の副菜が一品増えるだけでなく、彩りがよくなるのもいいですね。

るーみんさん:この病気になって、ひとつのことに集中すると、その前にしていたことを忘れやすく、同時進行で複数のことを行うのが難しく感じることもあります。だから、火の扱いには気を使っていますよ。

わが家はタイマー付きのガスコンロなので、鍋やフライパン内の温度が高くなると自動で止まるようになっていますが、加熱時間があらかじめ分かっているときは、火をつけたらすぐにタイマーをセットするようにしています。

あとは、電子レンジのようになるべく危険の少ない調理器具を使うようにする工夫もしています。

山口さん:ガスはやっぱり気を付けないと駄目ですよね。ガスコンロは、できるならIHに変えた方がいいのかもしれません。安全に使える調理器具を選ぶことも、必要だと感じます。

るーみんさん:調理も大事ですが、食事後の皿洗いも薬の効き目が弱くなるとしんどいときもあります。わが家は食器洗浄機を導入しました。薬の効果が切れて片付けまで手が回らないときにも、自動で洗ってくれるので便利です。

キッチンを安心して使えるように新しくしたら、作業場が広くなったので、リハビリキッチンでおすすめされているように椅子を置いて、料理中の休憩などに利用しています。

医師からのアドバイス

パーキンソン病の治療を開始して3〜5年たつと、徐々に薬の効果の持続時間が短くなり、1日の中で薬が効いている時間(オン)と切れている時間(オフ)が出現するようになります。オフになると動作の障害だけでなく、注意力や意欲も低下します。料理をする時間帯、特に朝食や夕食の支度をする時間帯はオフになりやすく、そのために料理ができないとお話しされる患者さんも少なくありません。お薬の調整で改善できることもあるので、主治医に相談してみるといいでしょう。

症状日誌を活用し、どの時間帯にどのような症状で困っているかを主治医に告げて、服薬のタイミングを調整できるか相談してみましょう。薬剤調整を行った上で、調理時間を短縮させる、火を使う料理などは家族と分担する、というような工夫をしてみるといいでしょう。(赫先生)

虹の谷さん:私は最近、重い鍋やフライパンを持つのが大変になってきました。わが家はIHの調理台なのでフライパンを動かす必要がありません。加熱中は置きっぱなしにしておけますが、フライパンを持って器に盛りつける動作がきついです。

Makiさん:分かります。フライパンから器によそうときに持ち上げ続けるのがしんどくて、まだよそいきってなくても下ろしてしまうんですよね。

私は手の動きも遅いので、材料を入れるときに鍋に手が当たってしまい、やけどをすることが多くなりました。においも分かりにくくなってきていて、鍋が焦げているのに気付かないまま煮ていることもあります。

るーみんさん:以前、鉄のフライパンを使っていたときは、重くて混ぜるのも大変でしたが、軽い素材のものに変えてからは、ずいぶんと楽になりましたね。振ってかき混ぜることも簡単にできるようになったので、今はフライパンで作る料理が一番楽だと感じます。かき混ぜるときや盛りつけるときは、箸ではなく、食材がつかみやすいトングもよく利用しています。

医師からのアドバイス

「鍋が持てない」など筋力が落ちたり、「焦げるにおいがわからない」ような嗅覚の障害は、パーキンソン病患者さんの特徴でもあります。

病気が進行すると、どうしても腕の筋力や関節の可動域が狭くなるため、リハビリによる筋力強化や可動域の改善が大切になります。主治医と相談しながら理学療法、作業療法のメニューを進めるといいでしょう。

嗅覚障害は、パーキンソン病と診断された時点で、すでに7〜8割の患者さんに認められる頻度の高い症状です。残念ながらパーキンソン病の治療薬では改善しません。患者さんの多くは、「においはするが、何のにおいか分からない」ということを訴えられます。一方で、自身の嗅覚の異常を自覚されていない患者さんも少なくありません。

嗅覚の障害があると、ガスのにおいや焦げたにおいに気付かないといった問題が生じます。そのためにも、嗅覚障害の有無を知っておくことは大切です。簡易的な検査もあるので、気になる方は主治医と相談してみましょう。(赫先生)

管理栄養士からのアドバイス

うっかりするとケガにつながりやすいのが調理時間。ケガをしないためには、物が燃えたり、やけどをしないように「コンロなどの近くには物を置かないこと」。また「フライパンの持ち手や包丁の持ち手は、調理台からはみ出さないように置くように心がける」、これらを徹底すると体に引っかかってひっくり返す危険性が減りますよ。(おいしい健康 管理栄養士)

まとめ

下ごしらえした野菜を冷凍しておく、タイマーを忘れずにセットしておく、などお話に上がった工夫は、どれもすぐに取り入れることができそうなものばかりでした。

パーキンソン病患者さんが料理をするときは、薬の効果が切れるまでにどのように進めるか、計画的に作るのが毎日続けるコツなのかもしれません。
みなさんが実践しているコツをぜひ取り入れて、楽しく料理をしてくださいね。

後編では料理についてのモチベーションアップ法や、料理以外でしているリハビリなどを伺いました。

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