ずっと自分で食べ続けるために お口周りの工夫 |口腔ケアの工夫

ずっと自分で食べ続けるために お口周りの工夫

監修:大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部 准教授 野原 幹司 先生

パーキンソン病患者さんが食事をおいしく安全に食べ続けるためには、適切な口腔ケアを行っておくことが大切です。

口腔環境を整えておくことは、誤嚥性肺炎を防ぐ上でも重要です。
自分の症状に合った工夫を取り入れ、できることから実践していきましょう。

1.口腔内を清潔に保つ

口腔内を清潔に保つ

POINT

  • 歯磨きなどの通常の口腔ケアで虫歯や歯周病を予防する
  • 嚥下障害が出てきたら、誤嚥性肺炎を防ぐために口腔内を清潔に保つ

パーキンソン病の進行度が軽度の場合は、虫歯や歯周病を予防するために、歯磨きなどの通常の口腔ケアをしっかりと行い、お口の中を清潔に保つことを意識しましょう。
 
病気が進行し、食べ物を飲み込みにくくなったりむせやすくなったりしはじめたら、誤嚥(食べ物や唾液が誤って気管に入ること)に注意する必要があります。食べ物や唾液から口腔内の細菌が肺に入ると誤嚥性肺炎を起こすおそれがあり、そうなれば患者さんの命に関わってくるからです。
 
お口の中が清潔に保たれていれば、唾液に含まれる細菌も少なくなるので、誤嚥してしまったとしても肺炎を起こすリスクを抑えることができます。
 
誤嚥性肺炎を予防するためにも、嚥下障害が出てきたら「口の中を清潔に保つ」という意識をプラスして、日々の口腔ケアを行っていくようにしましょう。

2.歯を磨くときの工夫

歯を磨くときの工夫

POINT

  • メトロノームの音に合わせてリズムよく歯磨きをする
  • 電動歯ブラシを活用する
  • 歯科医や歯科衛生士に歯ブラシの使い方や正しい歯の磨き方を習う

歯を磨こうとしたときに手がすくむ場合は、メトロノームのリズムに合わせて動かすようにすると、手が動きやすくなる方もいらっしゃいます。また、歯ブラシを押したり引いたりする往復の動作が難しい場合は、引く動きだけに集中するなど、どちらか一方向を意識すると磨きやすくなることがあります。
 
細かく手を動かすのが難しい場合は、電動歯ブラシを使うとよいでしょう。電動歯ブラシには、モーターで歯ブラシが振動したり回転したりするタイプのほか、音波や超音波で振動するタイプのものがあります。音波で動く歯ブラシはゴシゴシと動かす必要がなく、直接ブラシが当たっていない部分の汚れを落とすこともできるのでおすすめです。
 
電動歯ブラシを使うときは、歯科医や歯科衛生士から正しい使い方を習うようにしましょう。電動歯ブラシを使うとそれだけでしっかり磨けているような気分になりますが、正しい使い方ができていないと、汚れをきちんと落とせていなかったり、大切な歯や歯茎を傷つけてしまったりすることがあります。
 
電動歯ブラシの使用に関わらず、自分ではきちんと歯を磨けていると思っていても磨き残しはあるものです。正しく歯を磨けているか、磨き残しはないかなどを歯科医や歯科衛生士にチェックしてもらいましょう。

3.歯を磨くタイミング

歯を磨くタイミング

POINT

  • 薬が効いていて体調がいい時間帯に、最低1日1回
  • 1日1回の歯磨きは夜寝る前がおすすめ
  • うがいが難しくなってきたら、ガーゼや口腔ケア用のスポンジなどで汚れを拭い取る

歯磨きは、薬が効いていて体が動きやすい時間帯に行うとよいでしょう。毎食後に歯磨きをするのが理想ですが、最低でも1日に1回しっかりと磨けていれば、虫歯や歯周病になる心配はあまりありません。
 
歯磨きが1日に1回の場合は、夜寝る前がおすすめです。寝ている間は誤って肺に入ってきた唾液を咳払いなどで除去することができず、誤嚥する可能性が高まります。寝る前に口の中をきれいにしておくことで口腔内や唾液中の細菌の数を減らし、誤嚥性肺炎のリスクを低下させることができます。
 
嚥下機能が衰えてきたら、歯磨き後のぶくぶくうがいも、誤嚥に注意するようにしましょう。うがいが難しくなってきたら、ガーゼや口腔ケア用のスポンジなどで汚れを拭い取るようにします。歯磨き粉は基本的には必要ありません。ただし、口腔内の汚れを拭い取る方法は技術がいるため、歯科医や歯科衛生士からやり方を習ったり、週に1回程度、歯科衛生士にしっかりと口腔内の汚れを拭いとってもらいましょう。

4.歯科医との連携を大切に

歯科医との連携を大切に

POINT

  • かかりつけの歯科医をもつ
  • 月に1度は、歯科医や歯科衛生士に口腔内をチェックしてもらう

自分の口からおいしく安全に食べ続けるためにも、ご自宅で行う毎日のセルフケアは大切ですが、それに加えて、さまざまなことを気兼ねなく相談できるかかりつけの歯科医と日頃からつながりをもっておくことも重要です。
 
病気が進行してくると、歯磨きの動作がしづらくなったり歯を磨く行為を面倒に感じたりすることが増えてくるかもしれません。そうなれば磨き残しも出てきます。月に1回でもよいので、歯科医や歯科衛生士に磨き残しをきれいにしてもらうようにしましょう。

5.歯科受診の際にはパーキンソン病のことを伝えておく

歯科受診の際にはパーキンソン病のことを伝えておく

POINT

  • パーキンソン病であることや、自分の症状をあらかじめ伝えておく
  • 受診は薬が効いて調子のよい時間帯に
  • 起立性低血圧の症状がある方は、急な姿勢の変化に配慮してもらう

安心して歯科を受診するためには、自分から病気の情報を伝えることも必要です。調子のよい時間帯と調子の悪い時間帯があることや、歯磨きの動作がつらいこと、嚥下障害があるかどうかなどをあらかじめ伝えた上で、調子のよい時間帯に受診するようにします。
 
また、歯科治療は体を横にして行います。起立性低血圧の症状がある方は、急な姿勢の変化を避けゆっくり起き上がれるように配慮してもらいましょう。

6.食事やお口のトラブルも主治医に相談する

食事やお口のトラブルも主治医に相談する

POINT

  • 手足の症状だけでなく、飲み込みや食事の際の困りごとについても主治医に伝える

「口が動きにくい」「飲み込みにくい」といった嚥下障害を疑う症状が出てきた場合は、(脳)神経外科の主治医に相談するようにしましょう。
 
手足の動きにくさだけでなく、お口に関する症状や食事の際の困りごとについても詳しく伝えることで、嚥下障害への対策や治療薬を調整してもらえることがあります。症状に合った上手な食べ方や食事の内容についても相談し、食べる楽しみを失わないようにしましょう。

7.パーキンソン病患者さんのご家族・介助を行う方へ

パーキンソン病患者さんのご家族・介助を行う方へ

POINT

  • パーキンソン病による嚥下障害を完全に抑えることはできなくても、誤嚥性肺炎を予防することはできる
  • 歯科医や歯科衛生士に協力してもらいながら、できることを一緒に考えていく

患者さん本人の努力に関わらず、パーキンソン病による嚥下障害を完全に抑えることは困難です。しかし、適切な口腔ケアや食事を気をつけることで誤嚥性肺炎を予防することはできます。できなくなったことを責めたり気に病んだりするよりも、できること、やらなければならないことに目を向けていきましょう。
 
ご家族が患者さんの口腔ケアを手伝うときは、誤嚥に注意しながら行います。しかし、全てを自分たちだけでなんとかしようと頑張る必要はありません。歯科医や歯科衛生士のアドバイスや処置を受けたり、難しいことがあれば主治医や歯科医に相談して、できることを一緒に考えていきましょう。

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